今回は、許しがたい行動などの緊急事態において、嫌悪刺激による罰にかわる代替行動をどのように創っていくか考えます。
「代替行動を創る」ということは、「問題行動と両立しない適切な行動を形成する」ことです。そのためには、つぎのような環境調整と対応が大切です。
- 刺激の統制:不快な環境にしない。
緊急事態で必要な対処行動は、まず危険から逃げることが大切で、逃げた先のクールダウンの部屋は身体がくつろいで落着き安心できる環境が必要なことは、すでに2020年10月のコラムに書きました。
- 代替行動は、本人が安心や喜びを感じる活動から両立できないものを選ぶ。
ある小学校で、発達障害の児童が我慢できないことがあると学校の2階の窓枠にのぼって「飛び降りてやる!!!!」と叫ぶそうです。その児童担当の補助員は「ほら、降りてきなさい」と声をかけますが、児童は「ヤダー!!!」と言うことを聞きません。そばにいた特別支援教育コーディネータは携帯ゲーム機を取り出して、児童のそばで「ここがクリアできないんだよなぁ?」とささやきました。すると、児童は「それはね、こうやってやるんだよ」と窓枠から降りて携帯ゲーム機を操作し始めました。「窓枠にのぼって叫ぶこと」と「携帯ゲーム機で遊ぶこと」は両立できません。
- 児童が安心や喜びを体験できる支援(プロンプト)を行う。
本人が安心や喜びを体験できる代替行動を創り出すためには、つぎのような3種類の支援(プロンプト)を行うことが大切です。
- 身体的支援:手を持って助ける、一緒に身体を動かす
- 視覚的支援:モデルを示す、指で示す、マークをつける
- 言語的支援:「ここよ」、「つぎは、こっち」などの声かけ
上記の事例では、児童を理解し信頼関係がある特別支援教育コーディネータが「携帯ゲーム機」という視覚的支援と「(私は)ここがクリアできないんだよなぁ?(助けて)」という言語的支援を行っています。補助員は職務に忠実な善意からと思いますが、「(あなたは)降りてきなさい」という発言はYouメッセージの命令文になっていて、安心や喜びにはつながりにくい言葉になっています。
- 課題を特定しスモールステップ化して予防学習を行う。
上記の事例の対処を繰り返すと、児童は「携帯ゲーム機をしたいときは、窓枠にのぼって叫べばいいんだ」という学習をしてしまうかもしれません。
この児童に必要な学習課題を特定すれば、「我慢できないことがある時」の対処方法を学ぶことです。そのためには、児童は「我慢できなくなってきた」という自分の情動に気づくこと、「深呼吸をして落ちつくスキル」を身につけること、「先生、○○は嫌です。助けてください」と言えること、「叫びたくなってきたので、クールダウンの部屋で5分気持ちを落ち着けてきます」と申し出ること、などの予防的対処を日ごろから学習しておくことが必要です。