コラム

自己管理Self-management ストレスマネジメント(1)

 前回は、自己管理(Self-management)の満足遅延耐性(delay gratification)について考えました。今回から、ストレスマネジメント(manage stress)について考えていきます。まずは、ストレス(stress)の生理学的な面について、理解しておきましょう。

 丸山(2015)によれば、セリエ(Selye、H.)は、生体にいろいろな刺激が加わっても、その原因の如何にかかわらず共通して生ずる非特異的な生体反応の存在を見出しました。非特異的反応は、胃十二指腸の潰瘍化、胸腺の萎縮、副腎の腫大です。(中略)適応における副腎の役割について、下垂体-副腎皮質系のストレス反応の経路を実証しました。これは、後に、視床下部に始まるストレス応答の機序、HPA系(hypothalamic–pituitary–adrenal axis)を明らかにした弟子のギルマン(Guillemain、R.)のノーベル賞につながるものであったといいます。

 ストレス反応に関わる神経回路であるHPA系は、内田ら (2012)によれば、 視床下部-脳下垂体-副腎皮質軸のことです。視床下部 ( hypothalamus )が副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン (CRH)を分泌して、脳下垂体 ( pituitary gland )を刺激し副腎皮質刺激ホルモン (ACRH)の分泌を促進します。そして、副腎皮質ホルモンACTHが副腎皮質からのグルココルチコイド分泌を促します。グルココルチコイド(Glucocorticoid)は、つぎのような糖代謝を調整しています。

  • 糖質、タンパク質、脂質、電解質などの代謝や免疫反応などに関与
  • ストレス応答の制御に関わるなど生体のホメオスターシス維持に重要な役割

 また、記憶・学習能力に関わる脳部位である海馬が関係しており、長期間の心理的・肉体的ストレスによるコルチゾール曝露は神経細胞萎縮を引き起こすとしています。ほかに、扁桃体(Amygdala)がストレスに関与していることは有名です。情動・感情の処理、恐怖記憶形成に重要な役割を担い、ストレス反応機構、特に不安や恐怖反応に重要な役割を担っています。

 喜多村(2015)によれば、ストレス反応に関わる神経回路には、もう一つのSAM系(sympathetic-adrenal-medullary axis)と呼ばれる経路があり、脊髄側角を経て、副腎髄質と交感神経節にノルアドレナリンとアドレナリンの分泌を促して、攻撃もしくは闘争-逃走反応を担っているとされています。主な生理的作用としては、心拍数増加、血管収縮作用、血圧上昇、気管支平滑筋弛緩作用、気管支拡張などがあげられています。

 これらの生理学的な知見から理解できることは、生体に生じるストレス反応は、糖代謝や免疫反応、心拍数、血圧など、ホメオスタシス維持にかかわる意図的直接的な制御が困難な自律神経系の反応や闘争-逃走反応を引き起こしている点です。また、そのような反応を引き起こす原因となる刺激は、不特定であるということです。すなわち、コラム2020-6「Self Awareness:情動の自己管理」で記載したように、ストレスによる情動の生理反応や行動反応は直接的で意図的制御「自己制御(Self-control)」ができないことを示しています。そのため、ストレスマネジメントでは、生理学的な反応の特性を理解して気づき、自律的な回復機能が高まる条件を整える「自己管理(Self-management)」が重要になります。

 

参考文献

  • 丸山総一郎(2015)ストレスの概念と研究の歴史.(丸山総一郎編 2015. ストレス学ハンドブック. 創元社. 7)
  • 喜多村祐里(2015) 2ストレスのメカニズムとプロセス2-2.生物学的側面(2):生理学からの接近. (丸山総一郎編 2015. ストレス学ハンドブック. 創元社. 27)
  • 内田 周作、渡邉 義文 (2012)  ストレス 脳科学辞典
  • http://bsd.neuroinf.jp/wiki/ストレス