コラム

自己管理Self-management ソマティック・エクササイズ(1)触れる・離す・感じる・気づく

 前回は、「体」と「環境」との相互作用が繰り返され、「ストレス反応」がパターン化されたクセ「動作定型」について紹介しました。今回は、ストレスマネジメントとして使われるソマティック・エクササイズについて、どのように身体と気持ちを整えて自由度を広げるか紹介します。

  • 触れる・離す・感じる・気づく

 マインドフルネスに「ボディスキャン」というエクササイズがあります。自分の体のつま先から頭のてっぺんまで、順番に身体の各部分に注意を集中していくものです。身体のその部分が感じている感覚を感じ取り、そこに意識をとどめます。その部分で呼吸をしているように感じられたら次の場所に移動して行きます。意図的に何か解放しようとしたり、浄化しよう、リラックスしようとしたりしないことが大切です。

 なぜ、そんなことをするとからだと気持ちが整うのでしょうか?わたくしたちは、生まれてからの学習と発達の中で「ストレス反応」がパターン化されたクセ「動作定型」で振る舞い、思考のクセで考えています。これを最初の環境とからだが相互作用している「今の体験」を感じる所に戻す意味があると思います。マインドフルネスを漢字一字で表すと「念」(今の心)となります。

 社会性と情動の学習の課題としては、脈拍を測る課題で行うことが出来ます。

 まず、自分の指先で反対の手首の脈拍を探します。指先で触れると脈拍を感じることが出来ます。そして、今度は指の腹で触れて脈拍を探します。指先よりわかりにくいかもしれません。さらに指の背側で触れて脈拍を探します。ほとんど分からないのではないでしょうか。そうした自分の指先の鋭敏さをどこかで体験して学習し、脈拍を測る時には自然に指先を当てるクセ「動作定型」ができていることに気づくことが出来ます。

 次に、指先で30秒間脈拍を数えます。触れた身体の脈拍に気づき続けていることが大切です。集中していると心臓の拍動を一緒に感じることがあるかもしれません。実は脈拍数がいくつかということはあまり関係のないことです。

 発達障害の子どもとこのエクササイズを行った時に、30秒間指先を当てて自分の脈拍を感じることが出来ないで歩き回ってしまう子どもがいました。環境とからだが相互作用している今の体験を感じることが難しいのです。その場合には援助が必要です。

 支援者が子どもの腕に触れて一緒に脈拍を感じてみるのも一つの方法です。その際に、「触れます」と予告して子どもの体にそっと触れます。また、「離します」と予告して子どもの身体から指を離します。他者が自分の体に「触れる」「離れる」という今の体験を明確に共有することが大事です。

 また、子どもの指先を支援者の脈拍に触れるように「触ってごらん」と補助し、「離しましょう」と子どもの指先を支援者の腕から離す援助を行うのも「今の人との体験」を感じて気づくためのひとつのアイデアです。

 さらに、支援者が子どもの腕と指先を補助して、子どもが自分の脈拍に30秒間感じることができるように補助するのもよいでしょう。

 こうした支援を数回行った結果、発達障害のお子さんは自分の脈拍を自分の指先で30秒間感じることが出来るようになりました。その間、動き回ったり、おしゃべりしたりすることはありませんでした。そのビデオ録画を母親が見て「しゃべらないで落ち着ている!」と驚いていました。

 「深呼吸」は落ち着くためによく使われるエクササイズですが、ある発達障害のお子さんは、思いっきり息を吸って力んで息を吐いていました。マインドフルネスの「呼吸法」は、呼吸している時の身体の感じに気づくこと(息を吸う時:空気が入ってお腹や胸が膨らむ感じを感じる。息を吐く時:空気が出てお腹や胸がへこむ感じを感じる)が大切です。無理に呼吸をコントロールしないで、自分の自然な呼吸を感じることが大切です。

 

参考文献

  • L.ローゼンバーグ著井上ウィマラ訳 2001 呼吸による癒し-実践ヴィパッサナー瞑想. 春秋社.