コラム

自己管理Self-management ソマティック・エクササイズ(3)一緒に合わせて活動する

 身体と気持ちを整えて自由度を広げるソマティック・エクササイズについて、2回紹介しました。マインドフルネスと似ていると感じた方も多いと思います。身体と体験への気づきという点では共通しています。一方、特定の動作を意図的に行うエクササイズという点では違いがあります。学生に両方を演習してもらったところ、ソマティック・エクササイズの方が動作をはっきり感じられてわかりやすいとの感想がありました。

 もう一つの大きな違いは、マインドフルネスが基本的に個人の心的活動を対象としているのに対して、ソマティック・エクササイズでは、要支援者と支援者の体験共有を大切にしている点です。SELの能力で言えば、Social awareness(相手への気づき)による共感です。

(3)動作課題における体験共有

 前回の「躯幹のひねり」の動作課題への身体的支援では、体験共有(ご一緒に)を確実にするために次のような工夫をしています。

  1. 相手との距離感;支援者が要支援者に近づく距離は、安心できる距離から近づきます。相手に近づけば近づくほど強力な支援が出来ますが相手の自由度は少なくなります。相手から離れれば離れるほど相手の自由度は高くなりますが支援の強さは弱くなります。お互いが一致して「安心」できる距離をさぐります。
  2. 相手のからだに触れる:相手の表情や体の緊張を見ながら、触れられてもいやでない安心できる部位に「触りまーす」と予告してから、そっと、けれども「触った瞬間」の体験を一緒に感じることが出来るタイミングで、はっきりと触れます。「触れた」という一緒の体験が生まれます。
  3. 「躯幹ひねり」動作への身体的支援では、上体を「動かす方向に押す」「押す力を緩める」、動きを「止める」、相手の動きに「追従する」などのかかわり方があります。体験を共有するには、「動かす方向に押した」時に相手が「特定の方向に動くように押されている」と感じ、「押す力を緩めた」時に動く押される力が緩んだと感じ、「止めた」時に動きが止まったと感じ、要支援者が自分で動かすときに支援者が「追従してきている」と感じて、要支援者と支援者の体験が一致することが大切です。
  4. 相手の身体から手を放す。
    「躯幹ひねり」の動作が上手に指示通りに出来た時、どのように終わるかが大切です。「放しまーす」と予告して、身体への援助の手をそっと放します。「放れた」という体験を一緒に感じることが大切です。要支援者はその瞬間に「自由度が広がった」と感じる方も多いようです。一方、無造作にぱっと手を放してしまうのは、「見放された」というような体験を与えてしまうことがあります。
  5. 日常生活の中での体験共有
    台湾で結婚した娘が食事の時に「いただきます」と手を合わせたら、「なんて信心深いのか」と驚かれたそうです。日本では、宗教的儀式ではなく、食事をご一緒に食べ始めるための体験共有のお作法です。実は、テレビの中国語講座では、もともと「いただきます」の中国語はなかったのだけれども、最近は「开动了(いただきます)」と言うのが流行ってきているとのことでした。けれども、両手は合わせないそうです。(一緒に動作をすることはタイミングを合わせる体験共有の上で重要だと感じますが・・・)

 「ご一緒に」が苦手な自閉スペクトラム症の療育プログラム「対人関係発達指導法(RDI: Relationship Development Intervention)」では、子どもが大人と顔を合わせて情動を共有するための様々な遊びのプログラムを構成して顕著な成果をあげています。さらに実際に保護者が日常生活に応用して子どもと体験共有したビデオをたくさん集めて会員に公開しています(残念ながら、私たちは、研修用の一部だけしか見ることはできませんが・・・)。私たちの文化の中には「ご一緒に」体験を創り出すための仕組みが日常生活のいたるところにあると感じます。その社会性と情動の学習における意義をもっと認識して大切にしたいと思っています。