今回から、人間関係のスキルRelationship skillsについて考えていきます。
CASELでは人間関係のスキルRelationship skillsを「健康的で協力的な関係を確立して維持し、多様な個人やグループと共に状況を効果的に切り抜けていく能力」と定義して、次のような要素をあげています。
- 効果的なコミュニケーションをする。
- 肯定的な人間関係を発展させる。
- 文化的な能力があることをやって見せる。
- チームワークと協調的な問題解決を実践する。
- 対立を建設的に解決する。
- 負の社会的圧力に抵抗する。
- グループでリーダーシップを発揮する
- 必要に応じてサポートとヘルプを求めたり提供したりする。
- 他人の権利のために立ち上がる。
まず、コミュニケーションについて考えましょう。
アメリカのコミュニケーション派家族療法の研究機関MRIのWatzlawick(1967)は、人と人が関わった時のコミュニケーションの公理として次の5点をあげています。
- コミュニケーションをしないことは不可能である。
- コミュニケーションには情報と、情報に関する情報の2つのレベルがある。
- 人間関係は、コミュニケーションの連鎖の「パンクチュエーション(Punctuation)」によって規定される。
- 「デジタルモード(Digital)」と「アナログモード(Analogic)」の両者が使用される。
- コミュニケーションの交流は、すべて、「対称的 (Symmetrical)」または「相補的 (Complementary)」のいずれかである。
1は、コミュニケーションとは人と人の間の情報交換で、言語を媒介とすると共に言語以外の媒介もあって、「コミュニケーションすることを拒否する」場合も、拒絶する行動自体がひとつの情報として相手に伝わるため、結果としてコミュニケーションが成立してしまうということを示しています。異常行動と考えられる症状も「意図されない情報交換」として理解されます。
2の情報と情報に関する情報の2つのレベルがある点は重要です。
たとえば「なぜ遅刻したんだ!」という発言は、言語学的な情報としては遅刻した理由を聞いています。しかし、正直に遅刻した理由を答えると「言い訳するんじゃない!」と言われてしまうことがあります。この表現の目的が「怒っている」という人間関係や情動の情報を伝えているからです。相手の怒りに対して「ごめんなさい」が求められています。
次のような二つのメールをもらったら、皆さんはどう感じるでしょうか?
- 「11時に、来て(情報)。 (*‘へ’*) プンプン (感情)」
- 「11時に、来て(情報)。 ♡^▽^♡ ニコニコ (感情)」
言語学的な情報は同一ですが、絵文字の感情表現は異なっています。人間関係においてはこのように相手の「情動」表現に対する感度がそのあとの行動の決定に重要であることが分かります。SELが情動の理解と表現を大切にする理由もそこにあります。
情報と情報に関する情報の二重構造については、「語用論」でも研究されています。次の二つの表現の違いをご覧ください。
- What does X mean ?(X という表現の意味は何ですか)
- What did you mean by X ?(あなたはX という表現で何を意味したのですか)
1は、Xと意味の2項関係を対象とする意味論です。一方2は、Xとあなたと意味の三項関係を扱う語用論です。「あなた」という人の情動がコミュニケーションの要素として加わっています。
次回は、コミュニケーションの公理の3.4.5.について考えていきます。
参考文献
- Watzlawick、P.、 Beavin、J.E. Jackson、D.(1967) : Pragmatics of Communication. W Norton、 N.Y.