前回、家族療法の研究機関MRIのWatzlawick(1967)による次のコミュニケーションの公理の1と2について紹介しました。今回は3について考えます。
- コミュニケーションをしないことは不可能である。
- コミュニケーションには情報と、情報に関する情報の2つのレベルがある。
- 人間関係は、コミュニケーションの連鎖の「パンクチュエーション(Punctuation)」によって規定される。
- 「デジタルモード(Digital)」と「アナログモード(Analogic)」の両者が使用される。
- コミュニケーションの交流は、すべて、「対称的 (Symmetrical)」または「相補的 (Complementary)」のいずれかである。
3は、コミュニケーションをどこで区切ってみるかによって人間関係が異なって見えることを表しています。たとえば、次のような例があげられます。
<コミュニケーションの連鎖>
花子さん:太郎さんに文句を言う
⇒太郎さん:会話を避ける
⇒花子さん:応答しないことに文句を言う
⇒太郎さん:花子さんと会話する場面を避ける
⇒花子さん:会話を避けていることに文句を言う
⇒太郎さん:花子さんを避ける
<人間関係>
花子さん:太郎君が避けるから文句を言いたくなる関係
太郎さん:花子さんが文句を言うから避けたくなる関係
家族療法では、問題となっている人の症状を、原因と結果の直線的因果律ではなく家族システムが機能不全を起こしている現象として円環的因果律で理解します。たとえば、次のような理解の仕方をします。
息子:ゲームを夜中までして朝起きられない。
⇒父親:息子を怒鳴って注意する。
⇒息子:ストレスがあると新しいゲームのお金を母親に要求して怒鳴る。
⇒母親:息子の怒鳴り声におびえてお小遣いをあげる。
⇒息子:お小遣いでゲームを買って、ゲームを夜中までする。
⇒父親:お小遣いを与えた母親を怒鳴る。
⇒母親:父親の怒鳴り声におびえる。
⇒息子:両親のいさかいを見て、また新しいゲームのお金を要求して怒鳴る。
⇒母親:息子の怒鳴り声におびえてお金をあげる
この場合、息子が夜中までゲームをするのは、父親が息子を怒鳴るためなのか、母親がお金をあげるからなのか、父親が母親を怒鳴る両親のいさかいのストレスなのか、コミュニケーションの連鎖をどこで区切ってみるかによって原因と感じる人間関係が変わって見えます。実際の人間関係では、ほかにも学校での人間関係や学習状況などさらに複雑な要素が入ってきます。
こうした悪循環のコミュニケーションと人間関係の連鎖を変えていくためには、連鎖の中のちょっとした部分を変えることで家族システム全体が変わることを探します。家族の好きな料理を一緒に食べたり、家族が息子と一緒に好きなゲームイベントに行ったり、学校の仲間よんでゲームつき誕生パーティをしたり、これまでと違う関係が生まれそうな何かを探すことが大切です。そして、それが上手くいかないならすぐにやめます。少しでもコミュニケーションと人間関係の連鎖が望む方向に変わるならば続けるようにします。
次回は、コミュニケーションの公理の4.5.について考えていきます。
参考文献
- Watzlawick、P.、 Beavin、J.E. Jackson、D.(1967) : Pragmatics of Communication. W Norton、 N.Y.