- コミュニケーションをしないことは不可能である。
- コミュニケーションには情報と、情報に関する情報の2つのレベルがある。
- 人間関係は、コミュニケーションの連鎖の「パンクチュエーション(Punctuation)」によって規定される。
- 「デジタルモード(Digital)」と「アナログモード(Analogic)」の両者が使用される。
- コミュニケーションの交流は、すべて、「対称的 (Symmetrical)」または「相補的 (Complementary)」のいずれかである。
上記の公理2でコミュニケーションは情報と情報に関する情報の二重構造になっていることはすでに述べました。「アナログモード」は記号によらない自分や他人の身体を含む環境や文脈から生み出される「情報に関する情報」です。
デジタルモードとアナログモードの情報が矛盾する事態では人は心理的に混乱します。典型的には「ダブルバインド」と呼ばれる現象で、例えば、親が子どもに「こんなにあなたのことを大切の思ってるのにわからないの!」と長時間正座をさせて怒鳴り続ける場面があげられます。デジタルモードでは「あなたのことを大切に思っている」という情報ですが、「長時間正座をさせて怒鳴り続ける」という相手を威圧する言動は「大切に思う」情報と矛盾するメッセージになっています。しかも、その場から逃れることが出来ない状態であることが致命的です。
交流分析では、「裏面的交流」という交流パターンによるゲームの例をあげています。私の授業で学生が挙げた次の例をみなさんはどう感じますか?
友達「私ってさ、ほんとにブスだよね」
私 「そんなことないよ。かわいいと思うよ。」
友達「え、絶対思ってないでしょー。ほんとにブスだよー。」
デジタルモードでは「自分はブスでひどい状態だ」という情報ですが、「友達なんだから私のこと励まして」という隠れたメッセージも推測されます。そして、「かわいいと思うよ」と励ましても、「絶対思ってないでしょー」と否定して、「私にもっと関心を持って励まして」というお求めも感じられます。では、どのように応答できるでしょうか。正解はないのですが、例えば「あなたがブスだろうが美人だろうが、私はあなたのことは大切な友達だって思ってるよ。何かあったの?」と応答するのはどうでしょうか。アナログモードの関心と励ましのお求めに応答しています。
一方、「確かにブスだね」と応答するのはどうでしょうか?まさに「空気が読めない」応答のようにも感じます。このような、記号によらない自分や他人の身体を含む環境や文脈からのアナログモードの情報を読み取ることが困難な障害は、2013年のアメリカの精神疾患診断基準DSM5で「社会的(語用論的)コミュニケーション障害」という名前が付けられました。社会的コミュニケーション能力が弱いが、明確なこだわりや異常感覚が認められず、自閉症スペクトラムの診断基準を満たさない例が該当するとしています。なお、宮﨑の臨床経験では、社会的コミュニケーション能力が弱いのではなくて、アナログモードである「自分と他人の身体を含む環境や文脈からの情報」への関心と気づきが弱いことが原因と思われて、それを高めると素晴らしいコミュニケーション能力を発揮した事例を経験しています。ここでも自分の身体を基盤としたSelf AwarenessとSocial Awarenessの重要性を感じています。
参考文献
- Watzlawick、P.、 Beavin、J.E. Jackson、D.(1967) : Pragmatics of Communication. W Norton、 N.Y.