今回は、肯定的な人間関係を発展させることについて考えます。私は、人間関係を豊かにするためには次の3点が重要だと感じています。
- 自分を好きであること。
これまでの自分を認めて愛すること。また、これからの自分に価値があると感じること。 - 相手と体験共有的な交流を持てること。
相手に関心を寄せ、経験と情動を共有できること。道具的なかかわりよりも、 体験共有的なかかわりを持つことを楽しめること。 - 人と人のきづながあること
自分と相手の視点、考え、感情を理解し尊重できること。交流分析で言うところの“ I’m OK. You’re OK.” の態度がとれること。
今回は、まず「1.自分を好きであること」から考えていきます。次の写真は動作法の指導でマレーシアを訪問した時に見た落書きです。
図2022-6-1 マレーシアのある駅の落書き
日本語にすれば「自分を愛してくれる人を躍起になって探すのは、あなたが自分を愛することが出来ないから」とでもなるでしょうか。自分を好きになれない人が愛する相手に「私を好きになってほしい」というのは、なんとも厚かましいように思います。また、自分のからだを愛することが出来ない人が他の人のからだを愛することが出来るでしょうか?まず、どんな自分も好きになれることが大切に感じます。
これは、クライエント中心療法におけるカウンセラーの必要条件のひとつ「自己一致」とも考えられます。「キツネと葡萄」というイソップ物語があります。キツネが「おなかがすいた」と言う身体感覚で葡萄畑に来て、「おいしそうな葡萄だ」と感じます。けれども、何度飛びついても葡萄に届かず食べられなかったために、負け惜しみで「ブドウはまだすっぱい」「お腹なんかすいてない」とからだが感じる体験とは一致しない考え(自己概念)をするというお話です。実際にはキツネはそんなことは考えないでしょう。思考という精神機能が発達した人間だからこそ考えることだと思います。思考の前に自分の体験を素直に受け止めることができることが、他の人の体験を受け止める基盤になっているように思います。
また、これからの自分に価値があると感じるのは「希望」という言葉で表されるように思います。解決志向の心理療法では、問題が解決した状況を具体的にイメージする「ミラクル・クエスチョン」、夢が正夢になったとしたらと考える「ドリカム・クエスチョン」、タイムマシンで未来の自分を想像する「タイムマシン・クエスチョン」などの技法があります。こうして、クライエントの可能性を見つけ出し、実現可能となるための筋立てを一緒に考え、変化に対する期待がもてるようにして「希望」を創ります。