コラム

人間関係のスキルRelationship skills:文化的なちがいを解決するスキル2

 前回、「文化的な違いに対する人間関係のスキル」について、自分と違う身体と身体感覚や生活経験のある人々に接する時に、自分が自分自身の身体と身体感覚や生活経験を基準に物事を判断していることに気づくことの大切さを述べました。今回は、違う意見の人々の分断について考えます。

 マス・メディアやSNSなどにおいて、似ている意見の人同士で情報交換するうちに自分達の意見が正しいと信じて、別の意見の人々とは分断されたグループができるエコーチェンバーという現象があります。アメリカにおける政治的な態度の違いによる分断やフェイクニュースもその影響があると言われます。私たちは、そうした研究を通じて、文化的なちがいが人の分断をもたらす要因をどのように理解し、どのようにして乗り越えたらよいのでしょうか。

 Sasaharaら (2021)は、エコー チェンバーが出現する条件を、オンライン・ソーシャル・ネットワークでの情報共有の単純なモデルを使って検討しています。「意見(他者の意見からの影響を含む)」と「社会的つながり(意見の違う人とのつながりを切ること)」の二つの要因を操作してエコーチェンバーの出現のシミュレーションを行っています。その結果、他者の意見からの影響力と意見の違いのために、他者を友達関係から外すという行為によって、ソーシャルネットワークは分断された意見の似た者同士のコミュニティに急速に発展することが示されています。また、「ソーシャルメディアは情報のアーキテクチャとして、そもそもエコーチェンバーを引き起こす機構が内包されており、いかに三者閉包のネットワーク・モチーフの生成を防ぐか、あるいはどうやってそれを開くかがエコーチェンバー化を防ぐ鍵となる。」とも述べています。

 「意見(他者の意見からの影響を含む)」の要因については、自分と違う身体と身体感覚や生活経験がある人々の間で異なることは前回述べました。自分と異なる感覚や意見に対して距離を取るのではなく、近づいて理解しようとする姿勢が大切です。異なる感覚や意見を否定しない許容度が重要なのです。

 「社会的つながり(意見の違う人とのつながりを切ること)」の要因については、新しい社会的なつながりができる時に、同じ感覚や意見を持っている人同士で固まりやすい傾向があります。典型的には「友達の友達同士は友達になりやすい」という「トライアド閉鎖性(triadic closure)」という現象があります。その結果、感覚や意見が違う人とのつながりが希薄になっていくことがエコーチェンバー現象を引き起こす要因となっています。集団における複雑な問題の解決にむけては、多様な人々の感覚や知識、技能、意見を集めることが効果的と言われています。「集合知」と呼ばれる概念です。トライアド閉鎖性によって多様性を損なう危険性を乗り越えて、新しい社会的つながりの形成していくことが大切になります。

 

参考・引用文献

  • Sasahara、K.、 Chen、W.、 Peng、H.、 Giovanni Luca Ciampaglia、G.L.、 Flammini、A. & Menczer、F. (2021) Social influence and unfollowing accelerate the emergence of echo chambers. Journal of Computational Social Science、 4、381–402.