問題解決方法のプロセスとして、前回に示した「問題解決シート」の1から5の解決手順の中の、「状況の理解」の1- b「どんな気持ち?」1- c「どうしたかったの?」について考えます。
- 状況の理解:1- a「何があったの?」1- b「どんな気持ち?」1- c「どうしたかったの?」
- 解決策のアイデアを出す:2「なにができるかな?」
- 解決策の実施した結果を予測する:3 「それをしたら、どうなるかな?」
- 解決策を選択しどのように実行するか決める:4「どれをするか決める」(どんな姿勢や台詞でやってみるか、練習する)
- 結果を振り返る:「やってみて結果はどうだった?」
状況の理解:1- a「何があったの?」では、外界の客観的な状況についての情報を中立的に理解することが重要であると述べました。「状況の理解」の手順1-b「どんな気持ち?」と1- c「どうしたかったの?」では、自分と相手の状態について理解します。認知行動療法では、セルフモニタリングとして、ストレッサーとストレス反応「認知(思考)」「気分・感情」「身体反応」「行動」を書き出します。そして、意図的に変えることが出来る「認知(思考)」と「行動」にアプローチしていきます。
一方、ポージェス(2021)はポリヴェーガル理論から次のように述べています。
「適応的生存の観点から言うと、『叡智』は身体にあり、意識の届かない、神経系の構造によって機能している。言いかえれば、私たちが、環境中や人間関係にある潜在的なリスクを評価するとき、認知の働きを使っていると思うかもしれない。しかし、実は認知的な評価は、私たちの内臓の反応に二次的な影響を与えているに過ぎない。(中略)ポリヴェーガル理論では、ストレスとなる出来事の物理的な特徴は、実はあまり影響力を持たず、むしろ我々の身体的な反応のほうがより重要な役割を果たしていると考える。」
SELの問題解決シートでは、こうした身体を基盤とした情動の重要性から、トラブルに際して「私の気持ち」と「私の意図」を表現し、「相手の気持ち」と「相手の意図」を推測します。情動の自己理解(Self Awareness)と他人への気づき(Social Awareness)です。
身体反応を基盤とした情動の自己理解は、自分の事なのでよくわかっていると考える人も多いと思いますが、案外難しいのです。大学の授業で次のような場面でどのように感じるかという問題を出しました。
「テーマパークのアトラクションに入る長い列に30分も並んでいたところ、自分の前の人の所に知り合いだという人が3人割りこんできた。(具体的な細部の設定はフィクション可)」
「私の気持ち」の回答には、「イライラした」「気分が悪い」「むかつく」などの表現がありました。一方で、「ズルい」「ひどい」「おかしい」などの表現がありました。後者の回答は、おそらく「相手はズルい」「相手はひどい」「相手はおかしい」という意味とおもいますが、主語が「相手」なので私の気持ちを表現したことにはなっていません。
元々の私の意図は、「テーマパークのアトラクションを楽しみたい」だったと思います。けれども「割り込まれた」という緊急事態に対する交感神経系の「戦う」身体反応に影響を受けて、「ズルい相手を批判したい」「相手が悪いのだから引き下がらせたい」などの意図が生まれたのではないかと推測できます。こうした緊急事態の身体反応と情動に振り回されて後で後悔するような行動をしてしまうのではなく、自分の身体反応と情動に気づいて身体と気持ちを落ち着けることが大切です。
参考・引用文献
- ステファン W ポージェス(花丘ちぐさ 訳)(2021)ポリヴェーガル理論入門. 春秋社. Kindle版. (p.26)