コラム

5、Responsible Decision Making「責任ある社会的行動の選択」

 アメリカのNPO法人CASELは、「社会性と情動の学習Social-Emotional Learning」の要素として、次の5つをあげています。

 Self-awareness

 Self-management

 Social awareness

 Relationship skills

 Responsible decision-making

 今回から、Responsible Decision Making「責任ある社会的行動の選択」について考えます。これは「さまざまな状況での個人的な行動や社会的相互作用について思いやりのある建設的な選択をする能力」と定義されています。この概念には、Justice(正義)の理念が関連しています。まず、何を正義と呼ぶのか、正義の根拠はどこにあるのか考えてみます。

 Justice(正義)は人間のふるまい方について「良いと感じる」概念です。動物や植物にはあてはまりません。人間という種に共通する要素は、人種や性別での違いはあっても基本的におなじ身体構造を持っていることです。他の動物や植物の身体構造とは違っています。そして、人間も動物も植物にも共通する生物としての特徴は「生命(生きのびる傾向)」です。

 生物の生命維持と種の継続に必要な身体維持(防御・栄養)と生殖傾向を進化論的に考えると、次のようになります。

  • 身体維持(防御・栄養)と生殖傾向が強い種は、子孫を残し進化した。
  • 身体維持(防御・栄養)と生殖傾向が弱い種は、子孫が減り滅亡した。

 現代の先進諸国の少子高齢化現象は、自分の身体維持(防衛・栄養)のための資源(利益)の獲得に躍起となって、生殖傾向が減退しているかのような「人類の進化論的危機」のようにも感じます。

 同じ身体構造を持った人類が他の動物や植物と異なる特徴として、「知能」や「言語」をあげる人は多いと思います。しかし、様々な動物も生存の「知恵」と非言語的コミュニケーションがあることが知られています。人類の特徴として、進化論的には「知能」よりも社会的存在であるという点が重要です。

 無知の科学(スローマン他2018)では、次のように述べています。

 「個人が処理できる情報量には重大な制約がある。」

 「人類が成功を収めてきたカギは、知識に囲まれた世界に生きていることにある。知識は私たちが作るモノ、身体や労働環境、そして他の人々のなかにある。」

 また、マーク・トウェイン(1894)の小説の言葉「問題は無知ではない。知っているという思い込みだ」も心に留めておきたいと思います。

 すなわち、人類は、個人としての「知能」よりも、人と人とが相互作用し協力することで自分の知らない知識・文化を継承し進化・発展してきたと言えるでしょう。資源(利益)の獲得で競争や紛争が起こっても、人と人とが相互作用して協力し合うルールという知恵(法令)によって解決してきたと考えられます。

 人類は、知識・文化を共有することによって身体維持(防衛・栄養)のための資源(利益)を効率的に獲得すると共に、同じ身体を持ち同じ情動を感じる他の人々と協力し合う「社会性」によって、生命の維持・継続をはかる傾向を進化させてきたと考えられます。私は、ここにJustice(正義)の根源があると感じてます。

 

参考・引用文献

  • スローマン他. 2018. 知ってるつもり 無知の科学. 早川書房.
  • マーク・トウェイン(サミュエル・C・クレメンス). 1894 パディントンの聖徳. Charles L. Webster & Company.)