コラム

5、Responsible Decision Making「責任ある社会的行動の選択」2

 前回、Responsible Decision Making「責任ある社会的行動の選択」についてJustice(正義)の理念について、進化論の立場から「人類が生き延びて進化し続けること」に基準をおいた価値づけについて考察しました。CASEL(2023)ではこの要素として次の7項目をあげています。

  • 好奇心とオープンマインドをやって見せる。
  • 個人的および社会的な問題の解決策を特定できる。
  • 情報、データ、事実を分析した後、合理的な判断を下すことを学ぶ。
  • 自分の行動の結果を予測して評価する。
  • 批判的思考スキルが学校の内外でどのように役立つかを認識する。
  • 個人、家族、地域社会の福利を促進するための自分の役割を振り返ることができる。
  • 個人、人間関係、コミュニティと制度の影響を評価できる。

 好奇心やオープンマインドの要素が「責任ある社会的行動の選択」にどのように関係しているのでしょうか。

 好奇心やオープンマインドの反対語は、物事に関心を持たない「無関心」や自分の欲望や思考に固執する「クローズドマインド」と考えられます。利己的短期的欲求を抑え、社会的・長期的欲求を優先して待つことができる特性である満足遅延耐性(delay gratification)についてはすでに述べました(コラム2021.1自己管理Self-management 自己管理Self-management 予防対処(1))。利己的・短期的欲求は、「独り占めしたい」「いつも勝ちたい」「早く食べたい」「盗みたい」「やられたら、やり返したい」などの欲求です。一方、社会的・長期的欲求は「分かち合いたい」「勝ったり負けたりして楽しみたい」「食事を一緒に味わいたい」「人に信用されたい」「やられても平和に解決したい」などの欲求です。

 星新一(2012)のショートショート「おーい でてこーい」では、土砂崩れで流された社の後に、「おーい でてこーい」と叫んでも反響もない深い穴があいていて、利権屋が穴を埋めるためにごみを捨てて社会貢献して儲けるという話です。結末は本を読んでいただきたいのですが、目先の短期的利益に関心を寄せ、長期的なゴミの行く先に無関心であることが問題なのです。

 一般企業の経営においても、自社の短期的な利益や発展だけでなく、環境問題に対する取り組みや労働者の権利擁護、社会的格差の解消、人権侵害の防止など人類全体の社会的長期的な視野を持った取り組みが必要と考えられるようになってきています。日本の6月の株主総会で女性管理職の比率が低い企業が株主から批判をされたできごとは記憶に新しいでしょう。

 また、ノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサは「愛の反対は憎しみではなく、無関心だ」の言葉を残しています。愛も憎しみも、対象に関心を持っていますが、無関心は対象に関心を持っていません。

 利己的・短期的な欲求にとって関係がないと思われる事柄にも好奇心を持って関心を寄せ、オープンマインドで社会的長期的な欲求を大切にする姿勢を身につけることが求められます。

 

参考・引用文献

  • 星新一. 2012 おーいでてこい. ボッコちゃん(Kindle版). 新潮社、 17-20.