前回は、Responsible Decision Making「責任ある社会的行動の選択」の要素である「好奇心とオープンマインドをやって見せる」ことについて考えました。次の要素、「問題の解決策を特定できる」「情報、データ、事実を分析した後、合理的な判断を下す」「自分の行動の結果を予測して評価する」は、「チームワークと協調的な問題解決を実践する1~7(日本SEL研究会ニュースレターコラム2022.11~2023.5)」で解説しました。今回は、「批判的思考スキルが学校の内外でどのように役立つかを認識する」について考えます。
クリティカルシンキングと呼ばれる活動がこれに当たります。出来事の情報をオープンシステムの視点から広く収集して評価するものです。一方、ロジカルシンキングは、一定の範囲のクローズドシステムから得られた情報に基づいて正確で一貫性のある論理的な推論を行う活動です。
一般的な常識や習慣である「嘘をついてはいけない」とか「興奮して強い口調で発言するのは望ましくない」などの考え方にしたがった社会的行動が望ましいと考えられています。しかし、「友達からすでに持っている不要な物をプレゼントされて、相手の気持ちを考えて『ありがとう』と言った」や「不当な差別的言動に対して、正当に興奮して怒りを表現した」など、常識や習慣がどんな場合でも望ましいとも考えられません。実際、これまで一回も嘘をついたことがない人や一回も怒りを表したことがない人はいないでしょう。その場の状況と自分の気持ち、相手の気持ち、周囲の人々の気持ちを考えて責任ある社会的行動を選択することが大切です。ちなみに、アメリカのクリスマスプレゼントでは、デパートのレシートを一緒に入れておいて、欲しくない物だったら後からデパートで欲しい物に交換できる風習があるそうです。
自分が嫌な気持ちになった時には、それを表現してよいのです。ただ、I’m OK、 You’re OK.の態度で「自分も相手も大切にするアサーティブな自己表現」を工夫することが役に立ちます。(人間関係のスキルRelationship skills 人間関係を豊かにする3日本SEL研究会ニュースレターコラム2022.8)
幼稚園に通う発達障害のお子さんが集団活動に入れないということで、社会性と情動の学習(SEL)を2週間に1回の頻度で、1年間合計16回学習しました。小学校に入って運動会の徒競走の場面です。お母さんは息子の様子を見ていたそうです。「よーい、ドン」で走ってきたお子さんはビリでした。そして、一緒に走った一番仲の良い友だちから「やーい、ビリ」とからかわれたそうです。その時、お子さんが言った言葉にお母さんは感動したそうです。
「そんなこと言われると友達でいられなくなっちゃうから、やめて!」と。
「友だちでいたい」という意図と「ビリと言われて嫌だからやめて」という気持ちの両方を伝えるアサーティブな表現に私も感心しました。
アサーティブな表現は練習しないとすぐにはできません。練習問題です。みなさんは次のような場面で相手にどのような表現をしますか?
- 待ち合わせたのに、友達が1時間も遅刻してきた。
- 「やーい、デブ」などとからかわれた。
- テストの点を見られて「お前、バカだな。」と言われた。
- 仲間から、ちょっかいを出されて、小突かれた。
イギリスの小学校4年生のクラスのSEL授業を見学した時、子どもたちはこの練習問題を様々な表現で軽々と解決していました。
アサーティブな表現の仕方については、次回に解説します。