前回は、「批判的思考スキルが学校の内外でどのように役立つかを認識する」について考えました。クリティカルシンキングと呼ばれる活動です。そして、次のような場面で相手に対する批判的なコミュニケーションをどのようにアサーティブに表現するか練習問題を出しました。
- 待ち合わせたのに、友達が1時間も遅刻してきた。
- 「やーい、デブ」などとからかわれた。
- テストの点を見られて「お前、バカだな。」と言われた。
- 仲間から、ちょっかいを出されて、小突かれた。
相手に非がある状況では、次のように相手を非難・攻撃したくなります。
- 待ち合わせたのに、友達が1時間も遅刻してきた。
⇒「遅刻してきたあなたが悪い。どうしてくれるのよ!」 - 「やーい、デブ」などとからかわれた。
⇒「なんだよ、チビ!」 - テストの点を見て「お前、バカだな。」と言われた。
⇒「優等生ぶるんじゃねぇよ。バカ!」 - 仲間から、ちょっかいを出されて、小突かれる。
⇒「何すんだよ。このやろう!」と小突き返す。
これらの表現の主語がすべて「あなた(You)」になっていることに気づいたでしょうか? 次は、最初の文の主語を「わたくし(I)」に変えた表現です。
- 待ち合わせたのに、友達が1時間も遅刻してきた。
⇒「(私は)心配したよ。時間に来ないから。次は遅れないで。遅れるなら連絡して!」 - 「やーい、デブ」などとからかわれた。
⇒「(私は)ショックだよ。体のことを言われるのは。やめて」 - テストの点を見て「お前、バカだな。」と言われた。
⇒「(私は)テストの点が悪いからと言ってバカにされるのは嫌だな。そんな言い方しないで」 - 仲間から、ちょっかいを出されて、小突かれる。
⇒「(私は)痛いじゃないか。小突くなんて。友達でいられなくなっちゃうからやめて。」
なお、これらの表現例が「正解」という訳ではありません。他にも状況によって様々な表現の仕方が考えられるでしょう。大切なのは、自分の情動(感情と意図)を認識してIメッセージを使った表現している点です。アサーションの基本原則は次のようになります。
- 自分の感情を表現する
「(私は)、○○という気持ちになったんだ」 - 原因となった相手の行動を指摘する
「なぜなら、あなたが○○したから」 - 自分の要望(意図)を表現する
「だから、今度からは○○してほしいんだ」
なお、この基本原則に則った表現をすれば、「いつも相手との関係がうまくいく」とも限りません。自分の安全と利益を守るには、相手(敵)を批判し攻撃して打ち負かすことが大事だと考え続ける人々もいるからです。
私は、6月のコラムで、人類は知識・文化を共有することによって資源(利益)を効率的に獲得すると共に、他の人々と協力し合う「社会性」によって生命を維持・継続する進化をしており、この点にJustice(正義)の根源があると述べました(コラム2023.6. 5. Responsible Decision Making「責任ある社会的行動の選択」)。この観点から、批判的思考スキルとしてのアサーションは、人類の存続・進化につながる責任ある社会的行動を実践するために必要なスキルと思います。