コラム

SELの学校での実践(Schools)1

 CASEL’S SEL FRAMEWORKのSELの5つの内容をかこむ環境の中から、SELを効果的に持続可能な形で行う学校レベルでの実践について考えます。

 日本の学校教育の特徴は、公教育として学習指導要領に基づく教育課程が実施されていることです。学級でSELを実践する場合、特別活動、特別の教科道徳、総合的な学習の時間ないしは生徒指導などの一環として実施することになりますが、その場合も学校としての学校目標や教育課程あるいは学年としての方針や指導計画に基づくことが必要です。Eliasら(2015)は、学校レベルの持続可能なSEL実践として次の7つの活動をあげています。

Activity 1:学校の基本的組織体制や設備を整える。

学校目標、重点課題、様々な計画や対策などを統合し、望ましい学校文化と風土を発展させることができるようにする。

Activity 2:学校の基本的事項をアセスメントする。

SEL 関連の取り組み (生徒指導、教育相談、道徳、予防教育など)の実情を評価する。

Activity 3:学校文化と風土をアセスメントする。

調査、学校見学、フォーカス グループ、報告書などで学校文化と風土を評価する。

Activity 4:共通の価値観、課題、重要な生活習慣を明確にする。

Activity 5:行われている他のスキルと問題解決戦略を統合する。

Activity 6: SELを教える教員の準備を整える。

Activity 7: SELと共に歩む人々と連携する。

 Activity1の学校の基本的組織体制や設備を整える事を考えましょう。まず、学校長の意思決定が重要になります。学校長にSELの重要性を理解してもらうと共に、数年で交代する次の学校長にも引き継いでもらう仕組みが大切です。

 具体的な実施計画を遂行するには、教育課程にどのくらいの時間を割り振るか、保護者の理解をどのように進めるか、教材を用意して指導に当たる教員の研修をどのように行うかなど、中心となってマネジメントを行う教員が必要です。

 西山(2022)によれば、香港では香港校長会と共に香港教育局(HKEDB)が子どもの全人的発達の促進のためのSELコンテンツを用意して、教育行政担当者が香港輔導教師協会を通じて、人材としてガイダンス教員やソーシャルワーカーならびに学級担任などを訓練しています。

 松本(2022)によれば、オーストラリアでは、市民、研究者、教育者、企業(出版等)ならびに政府がBeyond Blueという団体に資金を出して、そこから学校にSELのプログラムを提供しています。

 山田(2022)によれば、日本のある自治体では、研究者と校園長会と連携をとりながら、教育委員会がプログラムを作成し、各学校のシニアリーダー&推進委員を養成するとともに、各学校の公務分掌にSEL担当者を定めて、年間20回の教員研修を実施している例が紹介されています。

 全ての学校にSELを推進する学校体制を整えるには、国の制度として学習指導要領に位置づけるなどの整備をして、各自治体の教育委員会からの公的支援を充実することが期待されます。

 

参考・引用文献

  • Elias、 M. et. al. (2015) SEVEN ACTIVITIES TO GUIDE COORDINATED SCHOOL-LEVEL SEL IMPLEMENTATION WITH SUSTAINABILITY. (Handbook of Social and Emotional Learning: Research and Practice. Guilford Publications. Kindle 版 p.33.)
  • 西山久子(2022)香港等における実践 ーアジア地域のSEL に着目してー. シンポジウム:自治体規模での実践から学ぶ日本らしい社会性と情動の学習(SEL)実践とは?、日本教育心理学会第64 回総会発表.
  • 松本有貴(2022)オーストラリアにおける実践. シンポジウム:自治体規模での実践から学ぶ日本らしい社会性と情動の学習(SEL)実践とは?、日本教育心理学会第64 回総会発表.
  • 山田洋平(2022)日本における実践. シンポジウム:自治体規模での実践から学ぶ日本らしい社会性と情動の学習(SEL)実践とは?、日本教育心理学会第64 回総会発表.