今回、Eliasら(2015)の学校レベルのSEL実践の7活動のうちから,Activity 5:行われている他のスキルと問題解決戦略を統合する,Activity 6: SELを教える教員の準備を整えることについて考えます。
学校教育で行われているひとつの教育領域として教科学習があげられます。社会性と情動の学習(SEL)が学習スキルと統合されて教科学習の面でも成果を上げること実証されています。Corcoran et. al. (2018) は,幼稚園から高等学校までの子どもを対象としたSEL介入の40の研究をメタ分析して,読解力(N=57,755)、数学(N=61,360)、科学(N=16,380)の成績に及ぼす影響を調べています。その結果,SELは従来の方法と比較して、読解力 (ES = 0.25)、 数学 (ES = 0.26)、 科学 (ES = 0.19) とプラスの効果が認められました。
SELは直接的に教科の内容を教えているわけではありません。それでも効果が上がるメカニズムについて,Zins et. al. (2004) は次のモデルを示しています。安全で思いやりのある協働的な環境で,SELプログラムとポジティブな行動支援が行われることにより,学校への関心と愛着と学習への取り組みが高まり,危険な行動が減少し,ポジティブな資質が養われて,教科学習と学校での活動がより促進されるというモデルです。
SELプログラムは,これだけで学校の教育活動の全てを改善するような魔法の杖ではありません。安全で思いやりのある協働的な環境を作り,ポジティブな行動支援を行う風土で実施することが必要です。Wang et. al. (2024) は,SELを展開する学校風土の役割について検討しています。9 か国の 10 都市から収集された OECD の社会情動的スキルに関する調査データ(10歳31,178人,15歳29,798人)を利用して調査した結果,協力的な風土と社会情動的スキルの間に正の関係があり,対照的に競争環境と社会情動スキルとの間に負の関係がみられました。希望する者が競い合いお互いを高める競争をすることは意義があると思いますが,子どもたち全員が強制されて競争させられ,序列づけて評価される風土は望ましいとは思えません。
また,Schonert-Reichl (2017) は,教師は最もストレスの多い職業のひとつであり,教師がストレスを感じると生徒もストレスを感じる傾向があると指摘しています。そして,教師に対するSELが教師のストレス管理を向上させる研究成果を紹介しています。長時間労働が指摘される日本の教師にとっても,SELを教えるための研修だけでなく,安全で思いやりのある協働的な環境をつくりだす教師自身のSELの準備も必要とされています。
参考・引用の文献
- Corcoran, R. P., Cheung, A. C. K., Chen Xie, E. K. (2018) Effective universal school-based social and emotional learning programs for improving academic achievement: A systematic review and meta-analysis of 50 years of research. Educational Research Review. 25, 56-72.
https://doi.org/10.1016/j.edurev.2017.12.001 (2024/5/1検索) - Zins, J. E., Weissberg, R. P., Wang, M. C. & Walberg, H. J. (Ed.) (2004) Building academic success on social and emotional learning. Teachers college press. New York and London.
- Wang, F., King, R. B., Zeng, L. M. (2024) Cooperative school climates are positively linked with socio-emotional skills: A Cross-National Study. Educational Psychology, 94-2, 622-641.
https://doi.org/10.1111/bjep.12670 (2024/5/1検索) - Schonert-Reichl, K. A. (2017) Social and Emotional Learning and Teachers. The Future of Children, 27-1, Princeton University, 137-155.
https://doi.org/10.1111/bjep.12670 (2024/5/1検索)