コラム

SELの学校での実践(Schools)4

 今回は、Eliasら(2015)の学校レベルのSEL実践の7活動の最後のActivity7:SELと共に歩む人々と連携することについて考えます。

 前回,SELプログラムは,安全で思いやりのある協働的な環境を作り,ポジティブな行動支援を行う風土で実施することが必要と述べました。しかしながら,現実は,不登校件数,暴力件数,いじめ件数のいずれも増加しており,学校が安全な文化と風土にないことを示しています。社会全体でも,社会規範や期待を否定する形で、堂々とかつ自己中心的、怠惰、ずぼらで強欲である行動のタイプを表す「Goblin mode(ゴブリンモード)」が2022年の「Word of the Year」に選ばれ,人間の欲望が関わる「人新世」という地層の大異変が起こっています(日本SEL研究会ニュースレターコラム2023.10. Responsible Decision Making「責任ある社会的行動の選択」5)。また,武力で相手を打ち負かす戦火が世界の各地で起こっています。利己的な欲望と愛と憎しみのぶつかり合いを解決する知恵が人類に求められていると感じます。

 EUの戦略「ブリュッセル効果」をご存知でしょうか。アニュ・ブラッドフォード(2022)は,統合された欧州はこれまで軍事パワーとなったためしがなく,経済パワーはアジアの台頭につれていまや衰えつつあると述べる一方で,EUは、自らのイメージで世界を形作っている依然として影響力のあるスーパーパワーを持っていると述べています。世界の至るところで、どの製品が造られ、また、どのようにビジネスが行われるのかに影響を及ぼす基準をEUは設定する能力があると主張して,これを「ブリュッセル効果」と呼んでいます。EU理事会が5月21日に、人工知能(AI)を包括的に規制する規則案(AI法案)を世界に先駆けて採択し,日本でも対応を迫られた岸田首相の会見を見た方も多いでしょう。

 人類は,利己的な欲望と愛と憎しみのぶつかり合いの歴史を通じて,利己的短期的欲求を抑えて惨劇をさけ、社会的・長期的欲求を優先する満足遅延耐性(delay gratification)により,お互いが安全に共存するためのルールを作ってきたのです(日本SEL研究会ニュースレターコラム2021.01自己管理Self-management 予防対処(1))。

 自分の欲望と愛と憎しみと相手の欲望と愛と憎しみを理解し合って,お互いが安全に生活するためのルールを大切にする「社会性と情動の学習(SEL)」を学校教育の文化に根付かせたいと願っています。そうした仲間がさまざまな場所で増えていくことを期待しています。今年の第33回国際心理学会(ICP2024)と日本教育心理学会第66回総会では,日本SEL学会として「社会性と情動の学習(SEL)」のシンポジウムを開催します。是非とも多くの方々にご参加いただき,世界の仲間と共に安全な文化を創造する仲間となっていただきたいと思っています。

 

参考・引用の文献

  • アニュ・ブラッドフォード(庄司克宏 監訳)(2022) ブリュッセル効果 EUの覇権戦略──いかに世界を支配しているのか. 白水社.