学校と家庭のパートナーシップ(SFP: school–family partnership)について前回からの続きを考えていきます。小学校学習指導要領(2017)総則第5学校運営上の留意事項には「2 家庭や地域社会との連携及び協働と学校間の連携」が記載されています。
学校から家庭への連絡には連絡帳が使われることも多く、欠席・早退の連絡、行事や時間割、宿題、持ち物、教員からの挨拶やコメントなどが記載されます。家庭から質問や返事を書く欄もありますが、どちらかというと学校から保護者への情報提供の比重が高いと感じます。富山(2014)は、小学校1年生の保護者の抱える不安や期待を調査し、友だちづくりや担任の先生との距離の遠さの心配を見出だしています。また、山口ほか(2010)は、中学校就学時の思春期の子どもの子育てについて調査した結果、保護者は子どもの学習,進路,人間関係への関心が高いことを示しています。連絡帳に学習や友達関係でのトラブルがあるとその報告や対応の連絡が記載されることもありますが、人間関係の問題を未然防止するために親子で体験学習するような内容はあまり記載されません。
Nishida他(2024)がプラハで開かれた国際心理学会(ICP2024)で発表した「くまのこプログラム」では、Family activity noteとして親子で楽しめるホームワークが用意されています。実施した保護者からは、「子どもと一緒にやって、楽しかった」、「今までよりも子どもの感情を考えられるようになった」、「子どもとどんな言葉を使うと役に立つのか知ることができた」などの感想が寄せられています。
SELプログラムのひとつ「セカンドステップ」では、子どもがレッスンの学習をする度に「家庭への通信」が用意されていて、それを配布します。子どもがどのようなことを学んでいるか家族が理解できるようにするとともに、学んだスキルを家でやってみる機会を作るためです。通信内容は次の3点です。
- 今週学んだこと
- レッスンのテーマの解説
- おうちで練習すること
特に、おうちで練習する活動を親子で楽しめるように工夫しています。
さらに、親子が一緒にセカンドステップのレッスンを受ける「親子塾」が児童館や保育園や市民センターなどで開かれています。この活動はアメリカのSecondStepの活動にもなかった日本独自の展開です。社会性と情動の学習(SEL)を親子で一緒に体験学習する仕組みは、教師と親と子どもが一緒にそれぞれの気持ちをわかり合う体験を生み出します。また、レッスンでの教師と子どものロールプレイングや他の親子のロールプレイングなどを親子で一緒に見て体験することで、そこから多くの学びを得ることができます。さらには、家庭でおこる実際の様々な親子間のトラブルを題材として、ロールプレイングしながら一緒に解決する体験を展開することもできます。こうした共同体験は教師と親と子どもとの関係を深めることができます。
参考・引用の文献
- 文部科学省(2017)小学校学習指導要領.
- 富山尚子(2014)小学校への適応について―小学1年生の保護者の意識. 日本教育心理学会総会発表論文集, 発達,ポスター発表D, 56, PD078.
- 山口豊一, 大川久 (2010) 保護者との密接な連携を図った学校経営の在り方―中学校就学時における生徒と保護者の不安との関係から―. 教育実践学研究, 14, 47-60.
- Nishida, C., Hosokawa, R., Matsumoto, Y. (2024). Development of the “Kuma-no-Ko” SEL Program for Early Childhood in Japan. Symposium;Social-Emotional Learning Efforts for Diverse Populations and Contexts, ICP2024.
セカンドステップについては、次のNPO法人のサイトを参考にしてください。
- 日本こどものための委員会(http://cfc-j.org/)
- Committee for Children (https://www.cfchildren.org/)