学校と家庭のパートナーシップ(SFP: school–family partnership)におけるインフォームド・コンセント(十分な説明と納得と選択)について考えます。
医療におけるインフォームド・コンセントという言葉は聞いたことがあるでしょう。医学的な診断と治療方針ならびに副作用等のリスクについて十分な説明を行い、医療を受ける者の理解と納得のもとで、同意を得て希望する医学的治療を選択して受けるものです。けれども、教育では、あまり聞くことがない言葉かもしれません。
社会性と情動の学習(SEL)の学校現場での活用について、宮崎(2024)はSEL研修会後の実践報告書32件から次の4つのタイプを分類しました。
- 成長促進教育実践:6件(19%):学級や学年全体で成長促進的に活用。
- 未然防止教育実践:5件(16%):学級や学年の問題行動のスクリーニング結果に基づいて、問題発生の予防に活用。
- 困難課題対応生徒指導実践:8件(25%):いじめ、不登校、少年非行、児童虐待など特別な指導・援助を必要とする特定の児童生徒の指導に活用。
- 特別支援教育実践:13件(41%):障害児に対する個別の指導計画に活用。
タイプ①と②は、法令に基づく学習指導要領の特別活動や総合的な学習の時間などの教育内容として実施されています。SELの本来の活用方法です。
タイプ③では、対象となる援助ニーズの高い児童生徒について、アセスメントに基づくプランニングを行い、具体的な支援策を明示するために「個別の支援計画」を作成することが生徒指導提要(2022)に推奨されています。
タイプ④では、特別支援教育として、障害のある幼児・児童・生徒の一人一人に必要とされる教育的ニーズを把握し長期的な視点で一貫した支援を行う「個別の教育支援計画」を基盤として、授業レベルでは「個別の指導計画」を作成して教育することとなっています。
タイプ③と④では、ひとりひとりについてアセスメントと個別の支援計画あるいは個別の指導計画を作成することが必要です。教師が感じているニーズ、保護者が感じているニーズ、子どもが感じているニーズは一人ひとり違います。それらのニーズを相談してすり合わせて合意していくことが必要です。これが、まさに教育におけるインフォームド・コンセントです。そこでは、教師と保護者と子どものSELの力が試されます。
宮﨑は次のような経験があります。
車いすの肢体不自由高等部生徒の自立活動の指導で、教師としては進路を考えると「移動動作と作業動作を改善したい」と願い、保護者は「もう少し読み書きの基礎を覚えてほしい」と願い、本人は「読み書きの練習はイヤ。一人でトイレ動作ができて介助者なしで好きな人とデートできるようにしたい」と願っていました。ひとりひとりの願い(情動)が違います。お互いの願いを表現して話し合った結果、読み書きは国語の時間にやり、自立活動では基礎となる手作業動作と車いすからの乗り移り動作を練習する」ということで合意しました。
また、別の高等部の生徒では、自立活動の個別の指導計画を作成して授業参観に来た母親に見せて、さらに実際の授業を見てもらい同意を得て指導を行いました。しばらくして、保護者アンケートの「個別の指導計画の説明を受けましたか?」という項目に「いいえ」と回答してきたことがあります。びっくりしましたが、実は、アンケートに回答したのは父親でした。保護者の理解と一口に言っても、母親だけでなく父親や祖父母や兄弟などの家族も視野に入れていくことが必要と感じました。
今回は、生徒指導や特別支援教育において、個別の支援計画や個別の指導計画が必要な児童生徒について、一人一人のニーズを把握して、それをすり合わせ、合意していくインフォームド・コンセント時の教師のSELについて述べました。次回は、教育におけるインフォームド・コンセントについて、さらに考えていきます。
参考・引用の文献
- 宮﨑昭 (2024) 社会性と情動の学習(SEL)の研修とその実践における課題. 日本SEL研究会第14回大会発表抄録.
- 文部科学省(2022)生徒指導提要.
- 文部科学省(2018)特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編(幼稚部・小学部・中学部).