今回からは、CASEL’S SEL FRAMEWORKにおける環境としてのまわりの友達や大人たちなどの「コミュニティ」について取り上げます。前回、生徒指導や特別支援教育でSELを活用する際の個別の支援計画や個別の指導計画について解説しました。その中から、個別の合理的な配慮について学級の友達やその保護者などに説明する「カミングアウト」について考えます。
「カミングアウト」は、「世間の非難や差別をおそれて隠していた自分のことを、公表すること。(「現代新国語辞典」三省堂)」とされています。
障害や様々な特徴がある子どもに個別の指導計画に基づく合理的配慮を行う場合に、まわりの友達やその保護者が、「一人だけズルい!」「えこひいき」と感じることがあります。視力の悪い子どもが眼鏡をかけることや歩行の不自由な子どもが車いすを使うことなどは他の子どもや保護者にも理解されやすいかもしれません。一方、読み書きや計算に困難がある子どもに配慮された別の課題を出したり、ICTなどの特別な用具を使うことを認めたりすることは他の子どもには「ズルい!」と感じられるかもしれません。さらに、人の気持ちを推測することが苦手な子どもが太った友達に「君、太ってるね」と正直に言ってしまうと、その友達は「悪口を言われた」と感じて、相手の子どもの特徴を理解して対応することが難しいかもしれません。
こうした、自分の定型発達の理解力を基準として困難のある人にも「平等」の義務を主張したり、ひとりひとりの感じ方の違いを理解できなくて相手の言動を誤解したりすることは、非難や差別を生む危険があります。それを予防するためには、社会性と情動の学習(SEL)を進めると共に、個別の合理的な配慮をまわりの子どもや保護者に説明することが必要です。
金子みすゞ (2020)の詩の言葉「みんなちがってみんないい」が教科書に載っていることは以前に紹介しました(日本SEL研究会ニュースレターコラム2022.9.)。合理的配慮に対する学級の友達や保護者の非難や差別が起こる危険性を予想しながら、ひとりひとりの違いをお互いに理解し合うことができるように説明することが大切です。そのための「カミングアウト」の原則として、子どもと保護者と、何をいつ、どのように伝えるか相談して、次の事項に配慮することが大切と考えています。
- 本人の希望があり,伝える目的・内容・情報が明確である。
- 本人が,特徴と対処について正しく理解している。
- 問題や情報不足の時,支援者や情報源がある。
- 本人や家族や関係者に精神的な動揺がない。
- 伝えようと考えている相手との関係が良好である。
- 相手が理解し受け入れてくれるまでに時間がかかることを知っていて,待つことができる。
こうした事項のスキルを身につけるためにも、子どもたちの社会性と情動の学習(SEL)が重要と感じます。
次回は、コミュニティの文化的な風土、「平等」と「公平」について考えます。
参考・引用の文献
- 金子みすゞ (2020) 童謡集わたしと小鳥とすずと. フレーベル館
- 現代新国語辞典(2024)三省堂