ソマティック・エクササイズは「問題状況」に対する「コーピング(coping)」では「情動焦点型」という自分の身体とこころを整えるスキルでした。けれども、いくら自分の身体とこころを整えたところで客観的な「問題状況」は変わりません。今回は、自己管理Self-managementの予防対処のもう一つの要素「個人や集団の目標達成の動機と力の感覚(feel motivation & agency to accomplish personal/collective goals)」について考えます。問題状況を改善するためにどのように対処していくか、それには問題焦点型のコーピングが必要です。
人は、問題が起こると「原因は何だろう」と原因探しをすることがあります。しかし、原因が経済的な困窮だったり病気や災害だったり、自分ではすぐに解決できない場合も少なくありません。そんな時に、解決した将来に対するビジョンを探して目標を考え、自分が現在持っている自然の力に気づいて活用する「解決志向アプローチ」(O’Hanlon 1992)があります。私はそれを希望と呼びます。その原則は、次の3点に要約できます。
- うまくいっているなら、そのまま続ける。
- うまくいっていないことは止めて、なにか違う行動を起こす。
- うまくいくまで、いろんな行動を試してみる。
イスラエルの心理学者ムーリー・ラハド博士は、困難の原因を追究するのではなく、どうやって困難を乗り越えてきたのかという回復力(レジリエンス)に注目しました。人々が困難をどのように乗り越えたのか検討し、次の6つの要素を見出だしBASIC-Phと名付けました。
- Belief:信念、意味、価値観、宗教、伝統、慣習、楽観⇔悲観
- Affect(感情):泣く、笑う、怒る、楽しむ、感じる⇔感じない
- Social(社会性):人に話す、会いに行く、SNS、役割を担う、繋がりを求める、ひきこもる、人と距離を取る(Social Distance)
- Imagination(創造性):遊ぶ、創造的活動・鑑賞(映画、音楽、絵)、リフレーミング、ファンタジーの世界、ゲームの世界に没頭する、現実逃避、頭を真っ白にする
- Cognitive(認知):情報の収集・整理、計画を立てる、方策を練る、知的理解、情報を得る
- Physical(身体的):身体的運動、飲食行為、食べる⇔食べない、行動、身体的反応、ドラッグ
また、Peterson と Seligman (2004)は、人々について正しいこと特に良い生活を可能にする性格の強みに焦点を当てて、ポジティブ心理学の観点から次のような6つの領域の24の性格特性をリストアップしています。
- 知恵と知識:独創性、好奇心、判断力、向学心、見通し
- 勇気:勇敢、勤勉性、誠実性(正直)、熱意
- 人間性:愛し愛される力(親密性)、親切、社会的知能
- 正義:チームワーク、公平、リーダーシップ
- 節度:寛大(寛容性)、謙虚、慎重(思慮深さ)、自制心(自己制御)
- 超越性:審美心、感謝、楽観性(希望)、ユーモア、精神性
こうした問題対処のコーピングスキルや性格特性は、次の人間関係の問題解決スキル(Relationship skills)に繋がっていきます。
参考文献
- O’Hanlon、 W. H. (1992) Brief Solution-oriented Therapy、 問題解決志向短期療法から. ブリーフサイコセラピー研究会主催研修会.
- ムーリ・ラハド、ミリ・シャシャム、オフラ・アヤロン編 2013 (佐野信也・立花正一 監訳 2017)緊急支援のためのBASIC Phアプローチ―レジリエンスを引き出す6つの対処チャンネル. 遠見書房
- 新井 陽子(2021)レジリエンスを支える―困難な状況で自分を手放さないために. 日本SEL研究会第11回シンポジウム.
- Peterson、 C.、 & Seligman、 M. E. P. (2004). Character strengths and virtues: A handbook and classification. American Psychological Association; Oxford University Press.
- 阿部望 2021 、学校現場における強み介入の実践と精神的健康に対する効果. ポジティブ心理学的介入というソリューション、 日本心理学会第85回大会公募シンポジウム.