コラム

Social Awareness (1) 他人への気づき(理事長 宮崎 昭)

前回までは、Self Awarenessについて「情動の自己理解」について紹介しました。今回から、Social Awareness「他人への気づき」について考えます。

CASELでは、Social Awarenessは「さまざまな背景や文化の人を含め、他の人の視点を取り、共感する能力。 行動の社会的および倫理的規範を理解し、家族、学校、コミュニティのリソースとサポートを認識する能力」とされています。では、どのようにして他の人の視点や情動を共感できるのでしょうか。

一時期YouTubeにアップされてNHKでも紹介された「車を止める七面鳥」の動画を、まずはご覧ください。

なぜ、動画を撮影した人は「七面鳥が羽を広げて車に乗っている人間に『とまれ』の合図を出し、道路を渡る他の七面鳥を見守っている」と思ったのでしょうか? それは、自分の人間としてのからだと感じ方を基準にして想像したからではないでしょうか。七面鳥は、尾羽を広げて他の七面鳥の方を向いています(車や乗っている人間の方を向いていません)。人間が車に乗っていることを認識しているでしょうか?また、羽を広げる行動が「とまれ」の合図になると理解しているでしょうか?道路を渡る他の七面鳥を守ろうとしていのるでしょうか? NHK放送の動物学者の解説では、「道路を渡る雌七面鳥に雄七面鳥が求愛して、すべての雌から相手にされなかった結果になった可能性がある」とのことでした。すなわち、尾羽を広げて他の七面鳥の方を向いているのは、求愛と関心という情動であって、人間が自分の身体を基準とした感じ方とは異なっているのです。

ヨーロッパにはアラブ地区からたくさんの難民が移っています。ヨーロッパの人々と人種も言葉も習慣も違う難民の共通点はなんでしょう。どうしたら分かり合えるのでしょうか? それは、人間としてのからだの構造が同じだということが根拠となります。感じる体の感じ方Self Awarenessが同じだということです。そのため、難民の方々との共同社会生活の基盤として、スポーツ活動や音楽や絵画や料理などの身体的に共有できる活動と言語学習の支援を行っているとの学会発表がありました。

自分の身体感覚への気づきSelf Awarenessがうまくできない人が、他人の身体感覚への気づきSocial Awarenessがうまくできるとは思えません。

けれども、同じ人間の身体をもちながら、自閉スペクトラム症の特異な身体感覚やHSP(Highly sensitive person)という高度な感覚処理感受性を持つ人たちは、鈍感な私の身体とは違う感じ方をしていることがあります。

ある時、音楽大学に通っていた娘が山手線の出発メロディーを聞いて、不満そうなため息をついた理由が私にはわかりませんでした。娘は「音階が半音ずれていたのよ!」と教えてくれて、「お父さんは鈍感でいいわね」と言いました。

人間という同じ身体をもちながら、少し違う感じ方をする人々の感じ方に思いを寄せることはなかなか難しいことです。けれども、それがSocial Awarenessの基本ではないかと思っています。次回は、同じ人間の身体でありながら、感じ方の違いがもたらす多様性Diversityについて考えます。