コラム

Social Awareness (2) 多様性への気づき(理事長 宮崎 昭)

前回、Social Awareness「他人への気づき」について考えました。他人の感じ方を推測できるのは、人間としての同じからだの構造によって、からだの感じ方Self Awarenessが同じであることが根拠になっています。けれども、自閉スペクトラム症の特異な身体感覚やHSP(Highly ensitive person)という高度な感覚処理感受性を持つ人たちは、人間という同じ身体をもちながら少し違う感じ方をしています。今回は、同じ人間の身体をもちながら感じ方の違いがもたらす多様性Diversityについて考えます。

「人間としての同じからだ」とひとくくりに表現しましたが、同じ人類でも男性と女性という性別により、染色体や身体構造やホルモンの働きに違いがあります。特に思春期には第二次性徴が始まることで、その違いが際立ってきます。

思春期の第二次性徴では、男女ともに身長が急速に伸び、陰毛が生えます。女性では女性ホルモン「エストロゲン」が分泌されて、胸が膨らんで生理がはじまり、皮膚も柔らかみを帯びてきます。一方、男性では、男性ホルモン「テストステロン」が分泌されて、筋肉が増えて骨格も発達し、声変わりやひげが生えるなどの変化が現れます。

第二次性徴における心理的な変化については、その仕組みはよくわかっていませんが、つぎのような現象が指摘されています。男女ともに、好奇心とチャレンジ精神,記憶力が高まるとともに、衝動性(過敏さ)が高まると言われています。また、親密な親友関係や恋愛感情が生まれるのもこの時期です。女性では、人間関係の中での「孤独感」に敏感になり、「仲間に入れてもらえないこと」への疑心暗鬼や「一緒にトイレに行く」などの行動が見られます。一方、男性では、「かっこよくなりたい」など独自の社会的地位や成功・報酬を求める傾向が強くなり、挫折感に敏感になると言われます。実際、ひどい挫折を味わった男性のテストステロンが減少していたという研究もあります。だから、「女々しくなる」と言われるのかもしれません。

こうした身体と心理の違いがあることを考えれば、思春期に男の子と女の子が、お互いの身体の感じ方や気持ちを理解できないのは無理のないことでしょう。

では、こうした感じ方の違い(多様性)をどのように教えたらよいでしょうか。

ソーシャルスキルトレーニングの感情理解のプログラムに、人の喜怒哀楽について「表情写真」をみせてどんな気持ちが答えさせるものがあります。人の顔の特徴をよく観察して、そこから情動をより正確に推測するスキルを養うねらいです。笑っている「表情写真」を見せて「どんな気持ちでしょうか?」と質問すると、多くの子どもは「うれしい」「たのしい」「幸せ」などの回答をします。けれども、「本当に悲しい時こんな表情になるよ」と答える子どももいます。

指導者が表情の読み取りスキルの正確さを大切にするのであれば、「この表情は悲しいのではなくうれしい時の表情です」と言うかもしれません。一方、子どもひとりひとりの感じ方の多様性を大切にするのであれば、「そうですね。悲しいのかもしれませんね」と子どもの感じ方を認めるかもしれません。それでは、大多数の人が感じる「うれしい」表情の読み取りができなくなるのではないかと心配する人もいるでしょう。そこで、私は、「この人にどんな気持ちか聞いてみました。うれしい気持ちだそうです」と付け加えて学習を進めることにしています。多様な情動の感じ方を認めながらも、最終的には「本人がどう感じているか」を大切にする考え方です。

自分と違う感じ方をする人がいること。その身体の感じ方は本人に聞いてみないとわからないこと。そして、どんな感じ方も「良い」とか「悪い」ということはないこと。これが、多様性のある他人の感じ方を理解するSocial Awarenessに対する柔軟な心構えではないかと感じています。