新教育指導要領と保育所保育指針に明記されたことで、非認知能力の育成が日本でも注目されてきている。記憶や計算などの認知能力に対して、思いやりや頑張りなどの力が非認知能力である。非認知能力は、学力を支え、生きる力につながる。ソーシャル・エモーショナルラーニング(SEL)は非認知能力を育てる学習であるが、SELプログラムは多様であり、それぞれが、自己コントロールやレジリエンスなどの特定の力の育成を目標として実践されている。そして、学力と関連するというエビデンスが蓄積されている。
このごろ保育園や幼稚園にお伺いすると「10の姿」という言葉がお話にでてくることが多い。「10の姿」は達成目標ではなく、方向性として示されているそうである。そして、この方向性は小学校、中学校の学習へと受け継がれる。これらの姿をどう育てていくかが課題であるということだった。以下が「10の姿」である。
1健康な心と体、2自立心、3協同性、4道徳性・規範意識の芽生え、5社会生活との関わり、6思考力の芽生え、7自然との関わり・生命尊重、8数量・図形、文字等への関心・感覚、9言葉による伝え合い、10豊かな感性と表現 (中央教育審議会, 2016)
アメリカの団体CASELでは、SELの力(スキル)を「自己への気づき」「他者への気づき」「自己のコントロール」「対人関係(づくり)」「責任ある意思決定」(小泉, 2011)のと定義している。これら5つは、「10の姿」に重なるだろう。アメリカの州・地域では、「教員のSEL」が教員認定条件になっていて、例えば、多くの州で5つのうちの1~3つを必須としている:「責任ある意思決定」46州、「他者への気づき」44州、「対人関係(づくり)」39州など(Schonert-Reichlら, 2017)。SELを育てることが、行政の政策として、教員に求められているのだ。日本においても、子どものSELスキルを育てるために、教員養成課程でSELを学ぶ機会が提供されることが望ましいだろう。
日本社会でSELスキルを育てるとき、それぞれの地域・学校で社会文化的な、あるいは、生活に基づくニーズやリソースから、目的とする非認知能力を育成する方法を作り出すのは、大きなチャレンジである。しかし、SELの強みは、多面的な文化をもつ社会において、すでに多様な力を育成するエビデンスのあるプログラムが、学校や地域で実践されて、エビデンスを示していることである。私たちは、それぞれのプログラムから、また、プログラム実践から、多様な非認知能力が、どういう理由で必要とされ、どう育まれるかを学ぶことができる。SEL研究会がこれらの情報をまとめ提供するというチャレンジに真摯に向き合いたい。