コラム

SELと世界平和(理事長 宮崎 昭)

 アメリカで開かれたSELプログラムの国際会議で、ノルウェーの男性と意気投合したことがあります。「このプログラムを世界中の子どもたちが学んで、お互いの問題を解決できたら、世界平和が実現できるんじゃないか。そうしたらノーベル賞ものだ」と。
 その男性はクルド人で、イラクのクルド人の住む地域で子どもたちに「セカンドステップ」を教える活動をしていました。「いつか、この子どもたちが私たちクルド人の国を作ってくれると期待しているから」と言うのでした。男性はその後亡くなりましたが、その意思は私に問い続けています。しばらくたって、息子が「お父さんの野望って何?‥世界征服?」と冷かしてきました。少し考えてノルウェーの男性を思い出し「世界平和さ!」と答えました。
 ところで、「世界平和」って、世界がどんな状態になることでしょうか?
 国連の緒方貞子さんとAmartya Sen氏が共同議長を務めた「人間の安全保障委員会」は、2003年の最終報告書に、「恐怖」と「欠乏」が状況を悪化させる危険性を高め、「保護」と「能力強化」が「恐怖と欠乏からの自由」につながることを示しています。さらに、国連は2015年に持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)として17の目標を掲げて、貧困を克服し、地球環境を守り、すべての人が平和と豊かさを享受できることを目指しています。
 そんな中で、読売新聞(2020年1月26日)の「あすへの考【誤解されっぱなしの経済】見えざる手 その心は『共感』」に、大阪大学教授堂目卓生氏の記事が載っていました。
 「経済という言葉は誤解されっぱなしで、現代では経済成長、経済効率など、物質的な豊かさを増すことのように受け取られています。(中略)(経済学の祖アダム・スミス)は最初の著作『道徳感情論1759年』で、人が野放図に富の獲得を目指せば社会の秩序は乱れると論じています。そして富への欲望だけでなく、人間にあるもう一つの本性を使おう、その能力を使えば富を得ながらも富に囚われず、心の平静を保つことができる、と書いています。それが、『共感』、シンパシーです。」
 そして、堂目氏はサントリー学芸賞を受けた時の出来事について、「講演の最後に、『では、今後私たちはどうやって生きていったらいいでしょうか?』という質問がでました。『スミスなら共感が大切というでしょう』と答えるのが精いっぱいでした。質問した人は不満そうでした。」と書いています。
 まさにここに現代の課題があると感じます。質問者はマスコミ関係者と想像すると、「共感が大切」という答えは読者の関心を集める記事にするには不適切と感じて不満だったのかもしれません。人々が「共感」に関心を払わないで、自分の利益に関心を抱いている世情を垣間見たように感じました。
 上図は、人間の「人への関心」と「富への関心」の二つの欲求を、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を使って表したものです。この相反するような二つの欲求のぶつかり合いをどのように解決していけるのか。私は社会性と情動の学習(SEL)がカギになると感じています。
 ただ、最近「いつまでたってもお父さんの野望が実現しないじゃないか!」と息子が私に言ってくるのです。ぜひ、皆さんのお力をお貸しください。