コラム

Self Awareness (2) 情動の自己理解(理事長 宮崎 昭)

 前回、「情動」について、日本神経科学学会の事業として位置づけられた脳科学辞典による次の定義を紹介しました。
 「情動(emotion)は、生体に入力された感覚刺激への評価に基づいて生ずる
  1.生理反応(自律神経系、免疫系、内分泌系の反応)
  2.行動反応(接近、回避、攻撃、表情、姿勢など)
  3.主観的情動体験
の3要素からなる。」
 今回は、こうした情動の自己理解を促進する方法について考えます。
 
 生理反応は身体の反応で意識的に直接制御できるものではありません。
 行動反応は随意筋による意識的な反応と考えられますが、恐怖時に現れる「戦うか逃げるかすくむか反応(fight-or-flight-or-freeze response)」は生得的なものです。また、条件反射によって身についた「嗜癖」は、「やめたくてもやめられない反応」です。表情は意識的に作ることができると考えられますが、「目が笑っていない」と言われるように心から喜んでいないと目だけは笑った状態にならないとされています。姿勢についても、成瀬(1973)は個人に「特異な動作パターンが一貫して恒常的にしかも自動的に出現する」動作定型があることを示しています。廊下を歩く足音で誰が来たのかわかるのは、その個人に特異な動作定型があるためです。このように随意筋による行動にも自動化されていて意識に上らない反応が多いと考えられます。
 
 Damasio(1994)は、情動,動機づけには常に身体的,内臓系の反応が付随するとして、そうした身体的,内臓系の反応を「ソマティック反応」と呼びました。情動の自己理解ということは、自分の身体的、内臓的、あるいは学習された定型的な反応パターンに気づくことにほかなりません。私はこれを「感じ方のクセ」と呼んでいます。情動と身体的・内臓的反応の感じ方のクセに感じて気づく方法として、禅やヨガから発展した「マインドフルネス」に注目しています。
 
 Kabet-Zinn(2003)は、マインドフルネスを「意図的に,現在の瞬間に,そして瞬間瞬間に展開する体験に判断せずに注意を払うことで現れる気づき」と定義しています。マインドフルネスは言葉で理解することよりも、実践することに意義があります。マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)では、「ガイドされた形で、8週間(1回3時間)+言葉を使わない一日のワークを行う」プログラムとなっています。具体的には次の5種類の瞑想を行います。
  1、呼吸瞑想:呼吸に注意を集中する。
  2、静座瞑想:呼吸から全身、音、感覚、思いや感情に注意を集中する。
  3、ボディースキャン:つま先から頭まで順番に注意を集中する。
  4、ヨーガ瞑想:動作のなかで身体に注意を集中する。
  5、生活瞑想:日常の生活動作(歩行、食事など)に意識を集中する。
 次回は、私が実践している具体的な方法について紹介します。